逃げられない・・3

 

 

「目が覚めたみたいだな・・」

青年が口を開いた。

しばし沈黙・・。

私は彼が持つ銃をちらりと横目に見ながら尋ねた。

「あなたは誰・・?」

怖くて声がまともに出せない。

私を恐怖に陥れたその人は更に驚くべきことを言った。

「ウォルターサリバン・・元々、俺に名前などありはしないがな・・」

 

「ウォルター・・・」

知っている・・

私はこの人の事を。

なぜこんな所に?

ウォルターサリバン・・

数多くの人を殺し死刑囚になった人。

確か刑務所で自分の首にスプーンを刺して自殺したとか。

たしかこの事件があった頃、夜遅くの外出はみんなやめていた。

友達が話してた、サウスアッシュフィールドハイツ事件は、ウォルターの真似をした

事件だったとか。

確か、犯人はまだ捕まっていない・・

まさか本人が生きてるなんて・・

ウォルターに関してはニュースに疎い私でさえも知っていた。

(なんてことだろう・・私は殺される。ズタズタに切り殺されるのかも・・

 いや片手に持つ銃で銃殺・・)

(そんなの嫌!!!逃げなくちゃ!!)

私は泣きながら震える手で、再びドアノブを回したり体当たりを仕掛けた。

「ククッ。この世界は俺の世界・・。逃げることなどできない。せいぜい足掻いて苦しみ、

俺を楽しませるがいい・・」

彼がそう言ったとたんドアが開いた。

さっきまで開かなかったのに・・・

「きゃぁっ・・・!!!」

いきなりドアが開いてすっ転んだ。

「いたぁ・・っ」

早く立ち上がってこの場から逃げないと・・

私は急いで立ち上がり走り出した。

後ろからコツコツと彼の足音が聞こえる。

追いかけてきてる・・

それにしてもこのアパートは何?

部屋から出ても怪しい空間だということには変わりはなかった。

壁が真っ赤なのだ。しかもうねっている。

生きているかのように動くそれはとても気持ちが悪く不気味だ。

錆付いた部屋の方がまだマシだったかもしれない・・

(どこから外に出られるの?)

私は1つ1つのドアを開けながら出口になりそうな所を探していく。

「ハハハハッ!!」

彼の笑い声が近くから聞こえた。

だめだ!!もっと早く・・もっと遠くへ逃げないと・・

絶望という言葉が頭に浮かんだ。

ひたすら廊下を真直ぐに進んだ。

するとアパートの部屋のドアとは違う大きなドアが現れた。

キィッ・・・

ドアを開けると下に降れる階段があった。そして1階に着いた。

(よかったぁ・・ここから出れる・・)

そう期待したのもつかの間・・

出口でないではないか・・

ただアパートの部屋のみしかないのだ。どういうこと・・??

コツコツ・・

彼が来る。

仕方がない。とっさにすぐ側にあった部屋に駆け込んだ。

中に入るとやはり不気味さに変わりはなかったが、人間が生活していたという

雰囲気があった。

私はその部屋の中で隠れる場所を見つけるという目的とともに、

詮索を開始した。

すると黒い影が部屋の隅に入っていくような気がした。

(人・・・?よかったぁ・・)

私はそこに向かって走っていった。やはり誰かいた。

「あのっ!!助けてください!!殺人鬼に追われてるんですっ!!」

(うんっ!?)

反応がない・・

よく見るとなんか変だ。

真正面にいるのは人間なのか?

ゴリラのような後姿はどう見てもおかしい・・

でもすがるにはこの人しかいない。

今は、悪魔にでもすがりたいのだ。

「あのっ!!お願いですから・・助けてください!!」

するとゴリラのような後姿をした人間はゆっくりと振り返り私を見た。

「キャァァァァア!!!」

2つの能面のような顔・・

人間に顔は2つもない。

血の気が引くのがわかった。いつ失神してもおかしくない状況に私は立たされている。

むしろしない方がおかしいのだ。

私はガタガタと震え膝をつく。

人間ではない化け物の手が私の頭に振り下ろされそうになった瞬間!!

パン!!

後ろから銃声が鳴った。

(私・・打たれたの・・?)

いや打たれていない。

打たれたのは・・・

目の前の化け物が崩れ落ちていく。そしてじたばたと苦しそうに私の前でもがいていた。

その化け物の恐ろしさと追われる恐怖にもう動くこともできない自分。

すると後ろから私を包み込むような温かい体温を感じた。

今は誰でもいい。優しい・・人のぬくもりを感じたいのだ。

とっさに私はその腕をぎゅっと握り締めた。

「はぁ・・」

安堵のため息が口からこぼれる。

しかし、私を現実に戻す一言・・・

 

「これに今殺されるのと、俺に後でゆっくりと殺されるのどちらがいい?選択肢を与えてやろう・・」

 

私を抱き寄せ耳元に囁いた。

これを言ったのは紛れもなくウォルターサリバンである。

とうとう彼に捕まってしまった。

そして必死に考えた末、答えが出た。

少しでも命が長らえるなら・・苦しまなくていいのなら・・

「あなたに殺されます・・・」

私は小さくそう言った。

そして、無残にも殺されていく化け物の様子を私はじっと見ていた・・

 

 

 

あれ、裏にならなかった。話の展開上、次の次あたりかしら。

ゆっくり、じわじわに萌えを感じる私はやはり変態・・

書いてる間、一人でニヤニヤしてたので

家族から見たら、かなりいかれた人に見られたに違いない。